膝の痛みはどこから起きるのか?
──病態から見極める“本当の原因”とアプローチ法──
今回は「膝の痛みはどこから起きているのか?」というテーマで、臨床で非常に重要になる“痛みの発生源”について詳しくお話ししていきます。
「骨が痛い」「軟骨がすり減っている」「年のせいかも…」
そんな言葉で片づけられがちな膝の痛みですが、実は“本当に痛みを感じているのはどこか?”を理解することで、改善の糸口が大きく変わってきます。
1. 膝の痛みの出どころは「中」と「外」に分かれる
膝の痛みは、大きく分けて2つの原因があります。
▶ 関節の「中」の問題
これは加齢や変形などによって関節内に起きる変化。たとえば、軟骨のすり減りや滑膜炎など。
いわゆる「変形性膝関節症(OA)」などが該当します。
▶ 関節の「外」の問題
筋肉、靭帯、腱、筋膜などの軟部組織に力学的なストレス(メカニカルストレス)がかかりすぎた状態。
姿勢や歩き方の癖から起きることも多いです。
2. 骨は痛くない?「痛みを感じるのは周囲の組織」
「骨が痛い」と思いがちですが、実は骨自体(骨質)には痛覚がありません。
では、骨折で激痛が走るのはなぜか?
それは骨を覆う“骨膜”が損傷されるからです。骨膜は非常に痛みを感じやすい組織なんですね。
他にも、関節周囲には痛みを感じやすい組織がたくさんあります。
3. 痛みを感じやすい膝の構造TOP3
膝の中で特に痛みを感じやすいのは、以下の3つです。
組織名 | 役割・特徴 |
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脂肪体(infrapatellar fat pad) | クッション材の役割。神経が非常に豊富で、最も痛みを感じやすい |
関節包 | 関節を包む袋状の組織で、炎症や癒着を起こしやすい |
滑膜・靱帯・関節軟骨周辺 | 動作や圧力で炎症を起こすことがある |
4. 多くの人が痛みを感じるのは「前内側」
「歩くと膝の内側が痛い」
「曲げ伸ばしでズキッとする」
そんな方、多いのではないでしょうか?
実は、膝痛患者の82%が“前内側”に痛みを訴えているというデータがあります。
この部分には以下のような組織が集まっており、痛みが出やすいのです。
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鵞足(縫工筋・薄筋・半腱様筋の付着部)
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内側側副靭帯(MCL)
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内側半月板の前部
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脂肪体の内側部
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滑膜や関節包
これらの組織は、癒着を起こしやすく、動きにくくなりやすいため、痛みの発生源としてとても重要です。
5. ただし、要注意!施術してはいけない膝の痛みもある
以下のような膝痛は、すぐに内科や整形外科など医師の診察が必要です。
疾患名 | 特徴・判断の目安 |
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痛風 / 偽痛風 | プリン体の代謝異常。急な激痛・赤く腫れる・熱感あり |
ベーカー嚢胞 | 膝裏にふくらみ。滑膜炎や半月板損傷と関連することがある |
感染性関節炎 | 発熱・熱感・強い腫脹。命に関わる場合もある |
骨肉腫など腫瘍性疾患 | 若年者・夜間痛・進行性の腫脹などが特徴 |
見極めポイント「炎症の4徴候」
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発赤(Rubor):赤い
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熱感(Calor):触ると熱い
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腫脹(Tumor):腫れている
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疼痛(Dolor):押すとズキズキ痛い
加えて、「夜間痛」がある場合も要注意です。
寝ている間に膝がうずいて痛みで目が覚めるような場合は、関節内での損傷や炎症が疑われます。
6. 私たちがアプローチできる「保存療法」とは?
安心してください。
多くの膝の痛みは、手術をせずとも改善が可能です。
これは日本理学療法士協会のガイドラインでも【グレードA(強く推奨)】とされている保存療法が根拠になります。
保存療法の主な内容
内容 | 具体例 |
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患者教育 | 膝の構造や病態、どうしたら悪化しないかを伝える |
生活指導 | 正座を避ける、重い荷物を持たない、あぐら禁止など |
♂️ 運動療法 | 大腿四頭筋・股関節周囲筋の強化、柔軟性の改善 |
徒手療法 | 関節モビライゼーション、筋膜リリースなど |
物理療法 | 電気治療(例:マトリックスウェーブなど)や温熱など |
手術後に痛みが残る、寝たきりになるケースもあり、可能な限り保存的に改善を目指すべきです。
7. 根本の原因は「下腿外旋症候群」にあり
膝痛の根本的な力学的要因は
✅ 「下腿外旋症候群」
太ももと下腿(すね)がねじれた状態で長年過ごすことで、膝の内側に不自然な負荷がかかり、痛みや変形を引き起こします。
まとめ
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膝の痛みは「骨」ではなく、周囲の**軟部組織(脂肪体・滑膜・靱帯など)**が感じています。
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特に痛みが出やすいのは「前内側」です。
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一部には医療機関対応が必要な膝痛もあるので、炎症や夜間痛には注意してください。
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多くの場合は保存療法による改善が可能であり、正しくアプローチすれば手術を避けられることも多いです。